Cases事例紹介

効果検証事例京都府 精華町 様

通いの場」参加者情報をQRコードで効率的に収集し
産官学連携で事業評価基盤を構築

「通いの場」運営支援サービスの「通いの森」をご利用いただいている京都府精華町健康福祉環境部の皆様と、「通いの場」評価検証として当社と共同研究を行っている千葉大学予防医学センターの皆様にお話を伺いました。

お話を伺った皆様

京都府 精華町 健康福祉環境部 高齢福祉課・健康推進課の皆様

人物

高齢福祉課・垣田課長(写真左)健康推進課・上野課長(中央)高齢福祉課・斉藤課長補佐(写真右)

精華町

京都府の南西端、近畿圏の中央に位置する町です。
古代・中世からの古い歴史を持つと同時に、関西文化学術研究都市の中心地として最先端の研究施設が数多く立地しています。
自然と都市、温暖な気候、歴史、文化、科学がバランス良く融合する町です。

  • 総人口:36,889人(2022年9月1日現在)
  • 面積:25.68平方キロメートル
  • 町の花:バラ
  • 町の木:かし

千葉大学予防医学センターの皆様

人物

予防医学センター井手特任助教(写真右)阿部特任研究員(写真左)
(お二人には今回はzoomでご参加いただきました)

千葉大学予防医学センター

千葉大学は昭和24年発足、5キャンパス、学部学生数10,473名、大学院学生数3,359名、教職員数3,402名を数える総合大学です(令和2年5月現在)。
千葉大学予防医学センターは、健康な身体、健康な心、健康な環境を三本柱として生活習慣病や心の病、環境がもたらす健康影響などを事前に予防する「予防医学」の研究・普及を図っています。 センターは6研究グループからなり、井手特任助教と阿部特任研究員は社会予防医学グループ(近藤克則研究室)に所属されています。
同センターと当社は産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(通称:OPERA)を通じ、共同研究契約を締結しています。

千葉大学予防医学センター URL: https://cpms.chiba-u.jp/

千葉大学予防医学センター教授
近藤克則(日本老年学的評価研究機構代表理事)

人物

司会 進行
トーテックアメニティ株式会社 公共医療システム事業部 日向担当部長

人物
メッセージ
「通いの森」を利用するきっかけ

司会

精華町様は介護予防のための事業を積極的に展開されていますよね。その中で今回、産官学連携サービスとして「通いの森」を利用しようと思い立ったきっかけとは、どのようなものだったのでしょう。

精華町様(以下敬称略)

精華町では、健康長寿のまちづくりをめざして「せいか365プロジェクト」という健康づくり活動を平成25年度から推進しています。町民一人ひとりが主体的に参加することが特長で、企業や大学とも幅広く連携を図ってきました。

これから高齢者が増えていく中で、いわゆる通いの場など、住民主体で運営していく介護予防活動を広めていかないと、行政だけではなかなか対応が難しいと考えています。また、それらの活動をどのように広げていくかを考えたときに、きちんと現状を把握・分析しながらPDCAサイクルを回していかないと、いずれ行き詰まるだろうという認識もありました。

そこで今回、通いの場における運営と情報収集を支援する仕組みとして「通いの森」サービスを利用しました。現在、トーテックアメニティ株式会社との共同研究として千葉大学の先生方が情報分析を行っているとのことで、こちらとしてもぜひという想いで評価検証に参加させていただきました。

通いの場での『マンパワー不足』という課題

司会

マンパワー的な課題についてはいかがでしょう。どこの自治体もそうなのですが、高齢者福祉をご担当の皆様はとてもお忙しいですよね。そんな中で、通いの場を運営していくのはご苦労も多いのではないかと思います。

精華町

システムを導入する以前から精華町では通いの場を運営していたのですが、ボランティアの皆様も年配の方が多いこともあり、ノートに手書きで参加者名簿を作ったり、出欠をチェックしたりするのはなかなか大変でした。 そういった情報の集計をボランティアの皆様にお願いすることも難しいですから、情報の収集・集計には職員がかなりの労力を割いていました。

司会

それらの課題を解決する手段として、「通いの森」のサービスの一つである「チェックインサービス」を導入されたとお聞きしています。カードに記載されているQRコードをタブレット端末にかざすだけで、通いの場の参加者情報を収集・集計できるというものですが、こちらの導入効果はいかがでしたか。

精華町

手書きされた参加者情報をチェックしたり、データ化したり、集計したりといった作業がなくなりましたので、とても大きな業務削減になっていると思います。整ったデータがそのままこちらに送られてくるので、例えば報告書を作成するときなど、必要なデータをすぐに利用できるというメリットも大きいですね。

メッセージ

司会

なるほど。実際に通いの場でチェックインサービスを利用されているボランティアや参加者の皆さんからは、どのような反響がありましたか。タブレット端末やQRコードを使うとなると、使いこなせるか不安に思われる高齢者の方も多かったのではないでしょうか。

精華町

そのような不安感や抵抗感があるのではないかと想定はしていたのですが、使い方としては非常に簡単なので、1回の説明会で使えるようになったボランティアさんが多かったですね。職員が何度も足を運んで説明しなければならないというようなことはありませんでした。タブレットを開いてアプリを立ち上げたら、すぐにQRコードを読み込めるシンプルさが良かったと思います。

自治体の課題

司会

デジタル機器に不慣れでも簡単に使えるのは良いですよね。
ところで、これは千葉大学の先生方にお伺いしたいのですが、通いの場を運営したい、あるいはその活動を広げていきたいけれども、人手が足りなかったり、ITや情報活用などに不慣れだったりして、困っていらっしゃるという自治体は多いのでしょうか。

千葉大学様(以下敬称略)

そうですね。実際、多くの自治体がそのような課題でお困りではないかと思います。
例えば、通いの場について事業評価や効果測定をするためには、参加者の名簿を作成している、その名簿が電子化されている、被保険者番号と結合できる、要介護認定データと結合できるといった条件が必要となります。
以前、近藤克則先生が厚生労働省の老人保健健康推進等事業で関わられた通いの場の効果評価の実情に関する報告書(出典図表参照)によりますと、それらすべての条件をクリアして、通いの場のデータを分析可能な電子化された形で保持されている自治体というのは全体の11.3%でしたから、やはりかなりハードルの高いことなのだと実感しているところです。

司会

11%ぐらいというのは、思った以上に少ない数字ですね。その辺り、精華町様の場合はいかがでしょう。

精華町

精華町では、「せいか365」の取り組みの中で、令和元年から健康ポイント事業を展開しています。他の自治体の場合、スタンプカードに判子を押してポイントを貯める方法が多いのですが、精華町では、個人ごとのポイントカードのQRコードをタブレットで読み取ることによってポイントを付与するという仕組みを通して、参加者のデータを蓄積しています。ポイントカードは住民票コードと紐付けていますので、蓄積されたデータの個人識別が可能な形になっています。

今回、「通いの森」を導入するにあたって、この健康ポイントカードで通いの場にチェックインすることで、健康ポイントも付与できるような仕組みにカスタマイズしていただきました。健康ポイント事業と通いの場を紐付けることで、参加へのインセンティブになるのではないかと考えています。

司会

自治体の取り組みとしては、かなり先進的であるように思えます。

千葉大学様

そうなんです。精華町様の場合は、ベースとなるデータがしっかりしているので、それを活かして、今回は通いの場に参加している人たちと参加していない人たち、それぞれの特徴を明らかにできました。この結果を踏まえて、次はどんな分析や調査をしましょうかという、発展的な議論ができる段階になっています。
その後の健康状態の変化、フレイルになる割合、介護が必要となる割合など、参加者と非参加者でどのような違いが生まれるのか、長期的に追跡していくことでインパクトの大きな結果が見えてくる可能性もあるので、トーテックアメニティ株式会社様との共同研究において、分析、効果検証を行いたいと考えています。

通いの場の効果評価に必要なデータをきちんと準備している自治体であれば、「データ分析による確かな評価基盤が構築可能」「現状を明確に見える化可能」という意味では、精華町様の事例は他の自治体さんにとっても参考や励みになるものだと考えています。

精華町における産官学連携サービス『通いの森』活用イメージ

司会

実際のところ、そのような効果評価にはどれくらいの年数がかかるものなのですか。

千葉大学様

これまでの事例では、例えば自治体から要介護認定データをいただいて、要介護リスクを予測するのにおよそ5年の追跡期間が必要でした。ところが最近では、JAGES(※1)のデータより、要支援・要介護リスク点数(※2)を活用することで、1年から3年という短期間の追跡調査で要介護認定リスクや介護給付金の予測が可能になっています。

※1 JAGES(一般社団法人 日本老年学的評価研究機構):健康長寿社会をめざして科学的な予防政策の基盤づくりをめざす研究プロジェクト。全国の大学や研究所から研究者が参加しています。

※2 Tsuji T, Kondo K, Kondo N, Aida J, Takagi D. Development of a risk assessment scale predicting incident functional disability among older people: Japan Gerontological Evaluation Study. Geriatrics & Gerontology International 18(10): 1433ー1438, 2018.

効果測定・分析

司会

効果評価の技術や手法も年々進化しているわけですね。
精華町の皆様は、千葉大学による効果測定・分析について、どのようなことを期待されていますか。

精華町

ここ数年、健康ポイント事業や通いの場の運営を通して、参加者情報を蓄積してきたのですが、それをどう分析して活かせるのかというステップになると、行政職員には手に余る部分が多かったと思います。今回、千葉大学様にデータを分析していただいて今後の方向性についても検討できたのはとても良かったですね。

行政が行う事業である以上、必ず客観的な効果測定や評価が求められますし、それらの分析結果を住民にフィードバックすることで、健康意識を高めていくきっかけにもなると考えています。現在は通いの場に関する評価実証となっておりますが、将来的には健康ポイント事業に関する評価実証も行っていただけたらと思います。

メッセージ

司会

精華町様の健康ポイント事業は対象が広くて、18歳以上の町内在住者・在勤者なんですよね。高齢者に限らず、若年層からデータを収集できるということになると、どんな分析や調査が可能になってくるでしょうか。

千葉大学様

データを収集して、見える化して、その結果を事業に活かしていくという基本的な流れは、高齢者に限らず、全年代で共通していると思います。
近藤克則教授は「伴走支援」という考え方をいつも大切にされていまして、私たちも常に意識しています。例えば健康ポイント事業の分析でしたら、精華町の皆様が何を実現したいのか、どんな効果を期待しているのかといったことを日頃からキャッチボールさせてもらって、それを実現するためにはどんなデータが必要なのか、研究者の目線できちんと評価検証していく。そういうやりとりがとても大切だと考えています。
研究者の興味関心だけで自治体の貴重なデータを分析するのは私たちの実績になるかもしれませんが、もっと大切なのは、その分析が自治体にどう役立つのかというところです。
精華町様の場合はベースとなるデータが充実していますので、これからの共同研究における評価検証についても、しっかりキャッチボールをしながらやらせていただけたらと思います。

司会

精華町様では、「通いの森」の「基本チェックリスト管理ツール」も導入されたと伺っています。タブレット端末からのボタン操作で簡単に基本チェックリストをデータ化できる、というものですね。

精華町

現在は、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に向けて、専門職が通いの場に出向いて基本チェックリストを実施しています。いずれはタブレットを使って、ボランティアや参加者の皆さんご自身で、基本チェックリストを入力してもらえるようになればと思います。入力することで、自分自身の健康状態を把握することにもつながると期待しています。

精華町様事例の成功のポイント

司会

精華町様の場合、産官学連携サービスの活用が非常に上手くいった例だと思うのですが、その秘訣や要因は何だと思いますか。

精華町

もともと精華町では、町民一人ひとりが健康づくりに主体的に参画するという取り組みが行われている中で、通いの場を作りたいという強い思い入れがありました。現在、自分たちの健康は自分たちで維持するのだという志のある介護予防サポーターの方が100人ほどいらっしゃるのですが、そういった方々を養成しつつ、国の方からは介護予防をきちんと評価しなさいという指示があり、行政面では財源の確保ができ、「通いの森」や千葉大学様との出会いがありといった、さまざまな思いや取り組みの積み重ね、巡り合わせが上手くフィットしたのかなと思います。なによりもまず、通いの場を作りたい、介護予防をしたいという方々や団体が地域にあるというのが大事です。そういう団体があれば、行政としてもきちんとサポートしていきたい、褒めたたえさせていただきたいということになりますので。

司会

なるほど。地域での介護予防への志や取り組みの積み重ねがあってこそ、というわけですよね。

精華町

町役場の仕事というのは、当然、住民の皆様の福祉の向上をめざした業務となりますので、地域の皆様に協力していただいている結果として、フレイル予防や介護予防といった形で住民の方の健康にお返ししたりですとか、行政的にも要介護認定率の低下や、介護給付費の抑制に伴う財政状況の改善といったことから更なる事業の充実へという流れが大切だと思います。
そのために、これからも千葉大学やトーテックアメニティの皆様と協力して進めていきたいと考えております。

おわりに

司会

精華町様の人口構造は団塊ジュニアの40代が多いとお聞きしています。まさに2040年問題(※)が重要なポイントとなってきますね。それまでまだ20年弱ありますから、ぜひとも長期にわたる事業評価や効果測定にトライして、より良い健康福祉行政を実現して欲しいと思います。本日はありがとうございました。

※2040年問題:2040年、少子化によって人口が減少する一方で、団塊ジュニア世代が65歳以上になり、高齢者人口が史上最大となることから予測されるさまざまな問題のこと。

【 この取り組みは千葉大学近藤克則教授との共同研究(JPMJOP1831)によって実施しました。】